受験生の親の心得“やってほしいこと、やってはいけないこと”

はじめに

模試の成績変動、時間的拘束、将来への不安など受験生が抱える負担は非常に重いものです。せめて自宅ではリラックスして欲しいものですが、「家にいると親がうるさいのでストレスがたまります」という声を時折耳にします。勉強が思うように捗らない我が子を前に「あなたのために言ってるのよ!!」が飛び出します。その一言、本当に本人のためになっていますか? 親の自己満足、古い価値観の押し付け、思うようにいかない苛立ちの捌け口となっていませんか? 親は受験生にとって最高の理解者であり、最良のサポーターであるはずです。受験生本人にとってマイナスの存在であってはいけません。

高校入試に向かう受験生の保護者対象で書いているつもりですが、もちろん中学受験生に当てはまる部分もあると思います。受験が終わった時、家族で受験を振り返り「いい受験だったね」と言えるためには、ご家庭の理解と協力が不可欠です。子どもたちが迎える勝負の時を素晴らしい機会とするために、「NG行為」と「こうあってほしい」という姿勢について、数多くのご家庭と受験を乗り越えてきた経験からお伝えしていきます。

受験生の親のNG行為

過干渉

「勉強してる?」「模擬試験の結果、悪かったわね」「そんなことじゃ受からないわよ」

受験が近づいてくると、親から子へ悪影響を与える言葉が連発されます。親としては悪気がなく、本人のためを思っての言葉だとは思いますが、はっきり言って余計なお世話です。悪かった模擬試験の結果を見て最も落胆しているのは紛れもなく本人で、勉強時間が足りていないことも分かっているのに、それを殊更に取り上げたところで反発を生むだけです。

「自分がされて嫌なことは人にしない」。幼い時から伝えてきたはずですが、受験を前にすると親自身がそのことを忘れてしまうようです。親に「勉強しなさい」と言われて嫌な思いをしたご自分の過去の記憶はどこへ行ってしまったのでしょうか。

「本人の自覚が足りないから言ってあげている」、それもそうでしょう。歯がゆいですよね。では、自覚がない人に親が言ったところで、果たして自覚を持つことはあるのでしょうか。自覚というのは「おのずからさとる」ことを意味します。他人に言われても自覚などできません。

「東大生を生む勉強法」「受験を成功させるための10の方法」など巷には受験テクニック本が溢れかえっていますが、それを親が実践させようとしてもうまくいきません。子どもは十人十色。たまたま上手くいった人の模倣をしたところで効果が出るとは考えられません。「育て方」ではなく「育ち方」を大切にしてほしいものです。

また、志望校の決定を急ぐのも親の勝手です。志望校はいずれ、それなりの理由とともに本人が決めます。「志望校に向けてまっしぐらに勉強する」はロマンがありますが、親や周囲が安心したいがための幻想です。自分の得点力と志望校との距離を測りながら、入学後どう過ごしたいのかを考えて目指す学校を決めていくのも自分を見つめる大切な機会です。志望校が決まっていないことを責めるのはやめましょう。

無関心

過干渉と対をなすようですが、こちらはさらによくありません。受験生は孤独で寂しいものです。「あなたのことを見ている」ということをそれとなく伝えていってあげましょう。

よくあるダメな対応例としては、

  • 「相談があるんだけど」と言われても、「自分で決めなさい」と突き放す
  • 「『〇〇高校』ってどんな感じなのかな?」と聞かれても、「私はよく分からないから塾の先生に聞きなさい」と、にべも無く切り返す

などが挙げられます。干渉しすぎてもいけませんし、無関心すぎてもいけません。

気にかけてますよー、気を遣ってますよー、でも言い過ぎませんよー、という付かず離れずギリギリのラインが最高です(笑)

比較

同級生との比較、兄弟姉妹との比較、そして一番やってはいけないのが「私が受験生だった時は」という親自身の過去との比較です。そもそも時代が違うので親の過去との比較は無意味ですし、今とは置かれている状況も入試問題が問う内容も異なります。よって対策法が異なるので注意が必要です。

子どもたちは一人ひとり個性も、性格も、学習状況も違います。それを十把一絡げにして「こうすれば成功する」という方程式は成り立ちません。それは、何百人もの生徒を前にしてきた私たちでも同じことです。比較は意味を成しません。発破をかける意味合いがあると思いますが、比較されて奮い立つ子どもはほとんどいないということを肝に銘じてください。

ルーブリック評価(達成度評価)が注目されていますが、どれだけ成長したか、何を学べたか、というところが何より大切です。その子自身の成長や取り組みの変化を評価してあげてください。繰り返しとなりますが、大切なのでもう一度。比較することは無意味ですし、本人を傷つけるだけです。

もし、イメージがしにくいのであればご自身が誰かと比較された時のことを思い浮かべれば良いのではないでしょうか?

受験生を助ける「行動・態度・ことば」

「待ち」の姿勢を貫く

親の方から指示をするのでは無く、子どもから「こうしてほしい」や「お母さん(お父さん)はどう思う?」と聞かれることを待ってあげてください。「うちの子、何も話さないんです」と言う方が結構いますが、学校との面談の時、塾との面談の時、受験校を決めた時など、節目で子どもたちは親の意見を求めてきます。

決して親主導の受験にしてはいけません。待ちましょう。忍耐です。そして、本人の選択を尊重してあげてください。それが本人が初めて抱えることになる「責任」となります。

すべては受験生が自分で選んだ道、自分が蒔いた種である(否定的な意味ではありません)という感覚を持つことが大事です。それに親が過度に介入するからおかしなことになるのです。子どもの大切な選択の機会、自覚を促すチャンスを親が奪っているということもできます。末路は「お母さんがあの学校に行けと行ったから選んだのに、全然面白くない。私の青春を返して」となるわけです。

聞かれた時に親身になって相談に乗れるよう準備して待つ、という心構えが肝要です。

あたたかく包み込むように

あたたかい目で見守ってあげてください。頭ごなしにアドバイスをしなくても、差し入れをする、夜食を作ってあげる、寝不足を心配してあげる、というように行動や言葉で応援することができます。そして、何より家庭の雰囲気が大事です。腫れ物に触るように受験生を扱うのではなく、明るくあたたかな雰囲気で家庭を満たすこと、それが重要です。ピリピリした空気は本人にも伝わります。

「あなたを信頼している」ということを言葉や態度でしっかりと示してあげてください。また、改めて「かけがえのない存在である」ことを受験の機会に伝えられたら本人の気持ちも落ち着くことでしょう。ただし、余計なことを付け加えないでくださいね。「あなたはかけがえのない存在なのよ。だから、もっと勉強してレベルの高い高校・大学に入って安定した仕事について幸せになってほしいの」とか最悪です。

落ち着いて話せる機会を作る

とはいえ、見守っているだけでは受験生本人が最良の選択ができないかもしれません。回数は少なくても結構です。一回でもいいので、落ち着いて話せる時間を作りましょう。志望校についての情報交換、高校生活についての展望、社会に出てからの生き方、本人が描いている未来、など改まった受験の機会にしか話せないかもしれないことを話してみましょう。

ただ、この話し合いの機会も本人の気持ちが成熟していないうちに焦って設けても効果はありません。少しずつ本人の気持ちが進学に向けて高まってきたタイミングを見計らって行うのがベストです。

親の意見を押し付けるのではなく、「一つの考え方としてこういうものもある」という穏やかな提示に徹底し、「あなたはどう思う?」という傾聴の姿勢を保ってください。親の価値観と子どもの価値観をぶつける最初の機会になるかもしれませんね。

親もチャレンジを!

「受験生なんだから」という言葉を発するなら「受験生の親なんだから」という言葉もあっていいはずです。自問自答してください。受験生の親としての態度と行動ができていますか? 本人はこれまでやって来なかったような勉強や取り組みにチャレンジしているはずです。親も今までとは違う接し方や取り組み、生活を始めてもいいのではないでしょうか。

本人からいつ聞かれても大丈夫なように高校のことや制度のことについて調べておく、本人が喜びそうな食事のレパートリーを増やす、読書をたくさんする、子どもと一緒にいる時はテレビもスマホも見ない、禁煙・禁酒するなど、ぜひチャレンジをしてみてください。子どもに宣言してみるのも効果的かもしれません。反抗期真っ只中で「勝手にすれば」と言われるかもしれませんが、親も一緒に戦ってくれている気がして内心どこかで嬉しいはずです。

また、四六時中スマホをいじりながら子どもに対して「勉強しなさい」はありえませんよ。子どもにスマホやテレビを禁じるなら自分も禁じて然るべきです。「入試まであと三ヶ月なんだから我慢しなさい」という言葉をそのままご自分にどうぞ。

受験期というのは、子どもが階段を駆け上り大きく成長するチャンスです。目の前の子どもを見て「あーだこーだ」いう前に、親もこの機会をチャンスと捉えて自分が変わってみようと思ってみてはどうでしょう。親が変わろうとしている姿を見たら子どもだって頑張りたくなるものです。

某有名私立中高一貫校で教員を務めていた、良きライバルでもある友人が、オーストラリアの大学院への入学を決めました。安定した収入と労働環境をかなぐり捨てて、さらに良い教師となるための挑戦です。その彼が言っていたのは「失敗しても構わない。親の生き様を子どもに見せることが子にとっての何よりの経験だ」。親がチャレンジすることは「勉強しなさい」ということの一億倍、子どもに良い刺激を与えるはずです。

「あなたのため」は呪いの言葉

エピローグに代えて刺激的な言葉をプレゼントして稿を閉じます。

「あなたのため」は呪いの言葉

本当に子どものためになるのは、その子が親に求めていることをしてあげることです。それは「勉強しなさい」でも「いつまで寝てるの?」でも「受験生でしょ!」でもないはずです。場合によっては「何もしない」ことを求めていることもあるでしょう。時には人生の先輩としてアドバイスを欲しがっていることもあるでしょう。自らの行動を振り返って今日から「受験生の親」になってください。それが、自分と向き合う孤独な戦いを続ける我が子を支える最高のサポートです。

「あなたのためは呪いの言葉」はこちらの本からの引用です。刺激的ではありますが示唆に富んだ素晴らしい提言だと思います。おおたとしまさ氏の書籍は相当数読んでいますが、その中でも本書は著者渾身の一冊です。子育てに迷う親、受験生に戸惑う親、また逆に自分の育て方はこれでいいんだと自信を持っている親にこそ読んでもらいたい良書です。ぜひご覧ください。

また、おおたとしまさ氏の最新刊の中でもこの言葉に触れられています。こちらの方が手に入りやすいかもしれません。中学受験をお考えの方はぜひ。

このコラムを書いた人

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